「好きなやつが中々手を出してこないので彼ジャーで誘惑してみた」 - 8/9

 

 

 芯鉄の折れるのが判った。最期のときを迎えても、燭台切が案ずるのは藤色の刀のことである。

 とうとう彼との約束を守れなかった。もっとも悔いは無い。愛しい刀は審神者の呪縛から逃れ、今後は意に沿わぬ剣を振るわずに済む。初陣にしては上出来と言っていいだろう。
 誰かの呼ぶ声が聞こえた。摩耗する意識が遙かな音に手繰り寄せられ、俄に浮上する。二度と開かないはずの瞼に光が差した。

「しょくだいきり」

 曖昧だった視界が次第に明瞭になり、一つの像を結ぶ。膜を張った藤色が二つ並んでいる。その美しい双子の水鏡に映っているのは他でもない燭台切だった。
 視力に次いで触感までもが戻ってくる。燭台切は頭の下にある柔らかい枕の存在に気付き、ますます死が遠ざかるのを実感した。

「おはよう……君の膝枕で起きられるなんて、最高の目覚めだね」
「ッ、俺は、さいあくのきぶんだ」

 ぎゅうと長谷部が拳を握る。その手の中にある布袋から焼け焦げた臭いがした。出陣に縁の無い二振りは奇跡の絡繰りを未だ理解していない。

 刀の傷を癒すことができるのは審神者だけである。手入れを受けられない燭台切はあのまま朽ちるはずだった。実際に彼の太刀は一度折れている。折れたからこそ、神気の尽きかけた燭台切は復活することができた。御守りを渡した協力者は死角より成り行きを窺い、ここに来てようやく安堵した。

「全く、応援を要請しておいて敵地に単騎突入とは信じがたい暴挙だな」
「長谷部くんにとっては鏡を見てる気分だろうね」
「俺はあんなに単純じゃない」
「連絡も寄越さないでガチブラック本丸にふたりで殴り込みかけようとしたのはどこの誰でございましたかね」
「い、いや証拠を抑えたらすぐに報せるつもりだったんだ。こうなったのはちょっとした手違いというかだな」
 しどろもどろに反論を試みる長谷部だが、どう繕っても言い訳にしかならない。危うく串刺しにされかけた己を救ったのも、玩具同然の扱いだった刀たちを鼓舞したのも、燭台切を救った御守りを用意したのも、全ては隣に立つ男の功績である。

「……そもそも、どうしてお前がここにいるんだ? 途中まで一緒に居た二振り目にだって行き先は告げてないぞ」
「頑張って探しました。今一番きな臭いと噂のスポットに当たってみたらまさかの正解で、僕がどれだけ肝を冷やしたか解る?」
 革の手袋が長谷部の頬を一掴みにする。質問しておきがら、相手からの返答など全く期待していない素振りである。筆頭近侍お得意の笑顔が三割増しに胡散臭く見えて、肝を冷やしているのは寧ろ長谷部の方だった。

「二振り目の件といい、君は少し情が深すぎる。ぶっちゃけた話かなりのお人好しだ。今回の彼にはちゃんと本命がいたからいいものの、長谷部くんみたいな箱入りを食い物にしようって連中は少なくないんだよ。たとえ僕に愛想尽かしたとしても、見知らぬひと、特に余所の燭台切光忠には付いていっちゃダメだからね」
 一振り目の言に長谷部は首をひねった。実際には顔を固定されていて動かせなかったが、疑問符が浮かんだことに変わりない。納得いかない様子の長谷部を前に、今度は一振り目が盛大な溜息をついた。

「ああ、自分の魅力が解ってない国宝様はこれだから……油断すると僕みたいな男に食べられちゃうよって話してるんだよ? 大丈夫?」
 燭台切の手が長谷部の頬から鎖骨、胸へと滑る。服の上から突起を摘まれ、不意の刺激に長谷部の背がしなった。胸の右側だけに留まらず、もう片方の手で尻肉まで揉まれては快感に太刀打ちできない。長谷部は咄嗟に自らの口元を抑えた。

「君が嫌だって言っても絶対に別れてあげないよ。どんなに遠くまで逃げても絶対に探し出して、僕の元に連れて帰るからね」
 男の独占欲が長谷部のがらんどうになった器を満たす。愛想を尽かされたと思っていたのは長谷部も同様だった。訣別すら覚悟した男に再び求められ、熱烈に口説かれたのである。驚喜に打ちのめされ、長谷部は萎えた身体を壁に預けることしかできなかった。

「後のことは政府とねんくんたちが何とかしてくれるだろうし、僕たちはもっと落ち着ける場所に行こうか。昨日の埋め合わせ、しないとね?」
 有無を言わさぬ金色に射竦められ、長谷部は小さく頷いた。素より拒むつもりは無い。前線で辣腕を振るう燭台切の姿を見たときより、長谷部はこの刀に抱かれたくてたまらなかったのだから。

 

 

 歓楽街というだけあり、待合茶屋の類には事欠かない。適当な施設に入り、簡素な手続きを済ませて部屋の鍵を開ける。敷居を跨ぐなり、燭台切は長谷部の手を引いてベッドにもつれ込んだ。
 ふたり分の体重を受けてスプリングが跳ねる。言葉少なに抱き合い、互いの唇を吸った。体液を交換し、舌を絡める間に服を寛げる。上等なシーツの隅で長谷部のカソックと燭台切のジャケットが折り重なった。

「は、ぁ、燭台切……」
 か細い声に誘われ、露わになった首筋に顔を寄せる。真っ先に鼻腔を擽ったのは汗のにおいだった。不快さに顔を顰めるどころか、湿った肌も今は興奮剤にしかならない。燭台切は迷わず舌を伸ばし、微かな塩気ごと長谷部の味を堪能した。

「さきに湯浴み、しなくていいのか」
 目の前で揺れるつむじに向かって長谷部が問う。男の背に腕を回しながら実に今更な確認だった。
 仮に燭台切が汗みずくだろうと自分は気にしないが、相手もそうだとは限らない。昨晩の件も有る。長谷部はまた行為半ばにして捨て置かれる不安を拭えなかった。前轍を踏まぬよう、燭台切の興を削ぎかねない要素は少しでも減らしておきたい。

「そんなもったいないことしないよ。この方が長谷部くんの匂いが濃いし、服だって一枚一枚僕が剥いでいける。ああ、一緒にお風呂入ろうって誘いなら別だけどね?」
「そういう意味で言ったんじゃないが、お前がそれでいいなら、いい」
「ん? じゃあ長谷部くんはどういう意味で訊いたの」
 赤い舌が胸筋の合間をなぞる。柔らかな肉が骨張った身体を這って、浅緋あさあけの色をした飾りに近づく。先の質問も忘れて長谷部は期待に戦いた。まだ吐息が当たっているだけなのに内側は熱を孕み続ける。
 早く舌で、歯で、節くれ立った指先でめちゃくちゃに嬲ってほしい。淫猥な願いが視線に混ざる。言葉よりも雄弁な訴えは無事男に届いた。右の芯は燭台切の口内で舐られ、もう一方は指の腹で押し潰される。待ち望んでいた刺激を受け、長谷部は媚びたような甘い声を抑えられなくなった。

「ぁ、アぁ! そんな、いきなり……は、つよくするの、だめだッ……!」
「ンぅ、あんなあからさまにねだっておいて今更貞淑なフリをするんだ? 中身はこんなにえっちで、乱暴にされるのが好きなのに?」
「うぅ……だって、おまえはこういうのに積極的なやつは苦手なんだろう……?」
「は?」
 こいびとの予期せぬ台詞に燭台切も思わず素に戻る。やや低くなった声に萎縮したのか、長谷部は自らの甲で顔を覆い隠した。

「昨日、途中でやめたのは俺が変なこと言ったせいじゃないか……ジャージを勝手に着た上に、男のくせして抱かれたかったなんて告白したからお前も萎えたんだろう?」
「いやいやいやちょっと待って、待ってくれ長谷部くん。なに? 昨日の一件をそんな風に捉えてたの君」
「それ以外にどういう理由があってストップをかけるというんだ。夜で、ふたりきりで、布団まで敷いたんだぞ、据え膳だぞ、食えよばか」
「有った。有りました。あそこで止めてないと長船派の祖を名乗れなくなる事情がございました。とりあえず長谷部くんはこれっぽっちも悪くないし、彼ジャー最高だったし、あの告白も正直めちゃくちゃ腰に来たから安心してほしい」
 身体を起こし、燭台切は長谷部の背を柔く撫でつけた。間抜け面を見せまいと頑なになっていた腕から力が抜ける。白い手袋と袖との間に唇を寄せ、燭台切はゆっくりと長谷部の掌を外気に晒していった。

「僕はねえ、君が想像しているよりずっと長谷部くんのことが好きだよ。好きすぎて格好がつかないのに悩むくらいにはね。長谷部くんがどんな姿をしていても僕は萎えたりしないし、えっちなことに積極的とか寧ろ興奮するし、恥ずかしがる姿もそれはそれで乙だと思ってる」
「突然の性癖暴露に俺の方がついていけてないんだが」
「昨日も今日も明日もそれから先も長谷部くんとずっと一緒にいたいし、気持ちいいことをしたい」
「なんて下半身に正直なやつだ」
「正直な僕は嫌いかな?」
「………………すき」
 素直には頷きがたく、しかし否定できるほどひねくれてもいない。長谷部は羞恥心と戦いながら、小声でせめてもの反抗を試みた。この距離で聞き逃すはずもなく、燭台切は消え入るような告白を確と耳にした。

 ――ぼた。
「へ?」
 胸板に生暖かい感触が伝う。仄かに漂う鉄臭さと、見慣れた色合いから彼の正体は疑うまでもない。長谷部が唖然としているのは、いきなり垂れた赤い滴がどこから、どういう理由で落ちたものなのかすぐには想像がつかなかったためである。

「燭台切……?」
 恐る恐る尋ねるも応えは返ってこない。長谷部に背を向けた男は天を仰いでいる。その左手は自らの顔の下半分を覆っていた。黙ってティッシュを差し出すと、無造作に取られた数枚が赤く染まる。重苦しく、かつ緊張感とは程遠い間が暫し続いた。

「……もう僕は長船派の祖を名乗れない……」
「お前そんな鼻血くらいで」
「好きな子にこんな無様な姿見せてどの面下げて光忠が一振りの矜恃を持てって言うんだい」
「いや、別に俺は無様だとか思わないが」
「その優しさが今はつらい」
 一挙一動にすら気を遣う伊達男の背が力なく丸まっている。長谷部は物珍しさに目を瞬かせた。

 何事もそつなくこなし、戦場での誉れを恣にする男が、己の前では不器用な一面を垣間見せる。燭台切の余裕を崩せるのは自分だけだと思えば、優越感がこみ上げるのも当然だろう。長谷部はおずおずと燭台切の背後に寄り添った。

「その鼻血は俺のせいだと自惚れていいのか?」
「君以外が原因でこんな情けない姿を見せるもんか」
「そうか。俺のせいか、ふふ」
 男の肩口に額を寄せ、長谷部がほくそ笑む。上機嫌なこいびとに反し、燭台切は地の底から響くような声で応じた。
「随分と嬉しそうだねえ」
「嬉しいとも。お前がそこまで興奮してくれているとは知らなかった。伊達男にとっては見過ごせない事態かもしれんが、俺はこれで余計にお前が好きになったぞ」
「……ひとの気も知らないで」
「俺だって放置プレイ喰らったときは結構落ち込んだんだからな。これでお相子だろ」
「そうじゃなくてさあ……はあ、初めて長谷部くんから好きって言われたのにこんな切ない気持ちになるなんてあんまりだよ」

 前を向いたまま、燭台切は右肩で揺れる煤色に手を伸ばした。長谷部が関わるとどうも平静でいられない。遡行軍の苦無に不覚を取ったときでさえ、ここまでの動揺は覚えなかった。
 優しくしたい。追い詰めたい。甘やかしたい。泣かせたい。二律背反の情動が胸中で沸々と煮えたぎる。ただの一言で燭台切をかき乱す刀は、さらに非道な提案を重ねてきた。

「いい加減にこっち向け、続きができない」
「僕がずっと後ろから攻める体位なら考えます」
「お前が鼻血出した顔を見たいんだ」
「どういう趣味してるんだい。いくら長谷部くんの頼みでも聞けないよ」
「見たら多分もっと好きになるぞ」
「……後で僕の頼みも聞いてもらうからね」
「もちろん」
 渋々といった体で燭台切が長谷部に向き直る。血糊の大部分は拭き取られていて、少し赤くなった鼻尖とシャツに染みた痕以外に名残は見られない。それでも格好良さを求める刀からすれば不満なのだろう。燭台切は真一文字に口を結んでいる。その若干拗ねたような面持ちに、長谷部は口角で三日月を描いた。

「思った通り、お前は鼻血を出しても格好いい」

 指が纏わり付く粘膜を掻き分ける。腸壁を擦られるたび、長谷部は縋りついた枕に爪を立てた。官能に耐える手に連動して黒い布地が揺れる。悶えた拍子を装い、時折長谷部は身につけた衣服の匂いを嗅いだ。拓かれる感覚に翻弄され、もはや長谷部の救いは上着に染みついた燭台切の片鱗以外に無い。

「昨晩のリベンジで彼ジャケをしてほしい」
「そんなことでいいのか」
「いい。外も中も僕色で染まる長谷部くんが見たい」
「お前こそどういう趣味をしてるんだ」
 自分のことを棚に上げ、長谷部は相手の性癖にもの申した。とはいえ彼ジャーを久しく夢見ていた男である。呆れた素振りこそ見せはしたが、本心では彼ジャケにも興味津々であった。

 燭台切の上着にソックスガーター、今や長谷部の肌を覆うのはその二つのみである。秘所を晒しながら、一部は着込んだままという格好は燭台切をいたく満足させた。葡萄色の裏地に長谷部の体液が零れる。拘り抜いた戦装束が、愛しい刀の痴態で汚れていくのは控えめに言って絶景だった。

「ァ、もういい、ッく、さっさと、ン……! いれてくれっ……」
「焦っちゃだめだよ。まだ二本しか入ってないんだからね」
「うぅ、なまごろしだぁ……」
 初めて褥を共にした夜、長谷部には前戯の記憶が無い。意識が戻ったときには既に繋がっていて、内に幾度も精を放たれた後だった。晴れて両想いだと判り、勢い盛り上がった情交は快感で満たされ、幸いにも初物の苦しみを知らずに済んだ。男に腹を穿たれる善さが忘れられないだけに、慣らす過程は長谷部にとって一層もどかしい。

 三本の指が後穴から抜かれ、潤滑油を敷布に垂らす。カチャカチャと長谷部の頭上から忙しない物音がした。ベルトが落ち、前立てを押し上げる膨らみがようやく開放される。取り出された陽物は腹をつかんばかりに反り返り、血管が浮き出て、偉容と呼ぶに相応しかった。
 無意識に長谷部は喉を鳴らす。あれが一度でも自分の中に入ったなどと俄には信じ難い。怖じ気づく長谷部に構わず、燭台切は戦慄く足を担いだ。切っ先が沈む。十分に解された肉壁は凶器にも等しい雄を着実に呑み込んでいった。

「ア、ぁ、ああッ! はい、って、きたぁ……!」
 重たくなる下腹部から痺れが広がる。じわじわと侵食しつつある感覚は一度経験したことの有るものだ。長谷部は指先を丸め、さらなる衝撃に備えた。
「あと、もう、ちょっと……」
 ぐ、と燭台切が腰を進める。暴れる双脚を押さえ、どうにか全てを納めた頃には共に肩で息をしていた。燭台切は改めて組み敷いた刀を眺めやる。声を我慢しようとしてか、長谷部は自らの指を三本ほど食んでいた。溢れた唾液が指の付け根を過ぎり、袖に隠れた手首にまで達している。

 ふと目が合う。二、三回瞬きを繰り返した長谷部は、舐っていた指を外し軽く笑んでみせた。
「はは、おまえはどこもかしこもおっきいなあ……」
 長谷部としては単なる感想のつもりだった。借りたジャケットも、自身を見下ろす立派な体躯も、中を深々と貫く逸物も己とは比べるべくもない。多少悔しくもあるが、燭台切はそれほど理想的な体つきをしており、同性でも惚れ惚れとする代物である。要するに深い意味はない。長谷部は燭台切を煽るつもりなど一切なく、このまま馴染むまで動かずにいると思っていた。

「ふぇッ!?」
 中に埋めた剛直が肉壺をかき乱す。存分に注いだ油が律動のたびに淫猥な音を立てた。引き抜く寸前で再び長谷部の中に戻り、奥まで張り詰めた欲望を突き入れる。何度も往復するうちに隘路は蕩け、男の形にぴたりと寄り添った。

「っとに、どこでそういう文句覚えてくるのかなあ!」
「やァ、ンッ! なか、だめ、つよいのッ、おかひく、なるぅ……!」
「あはっ、いいよ一緒におかしくなろう、はせべくんッ……!」

 燭台切が上体を倒す。体重がかかり、二つ折りにされた長谷部はさらに深くまで男を受け入れた。角度が変わり、腸道の突き当たりを先端が小突く。痛覚とも快感とも捉えがたい刺激が長谷部の全身を襲った。

「ひぎッ! やめ、そこやだ、しょくだ、ぁあア”ッ!」
 未知の感覚に溺れるより先に長谷部の中で恐怖が勝った。服越しとはいえ立てられた爪が背に食い込む。燭台切は仕方なしに腰を浮かせ、手前のしこりを重点的に責め始めた。
「ぁ、あア――ふぅ、ン、はぁ……それ、やッいい、きもひ、いぃ!」
「うんうん、奥で気持ちよくなるのは今後の課題にしようね。まずはメスイキを覚えようか」
「めす……? ッああああ! あつ、あついぃ、しょくら、いく、いきたいぃッ!」
「ん、もうちょっと、まって……! 僕も、そろそろ……」
「むりぃ、もッやだ、でる、だしたいからァ……!」
「メスイキを覚えるって話だったろう? 前触るのはだあめ」
 自らを扱こうとしていた長谷部の手が窘められる。燭台切はシーツの端を探り、脱ぎ捨てた衣類の山からネクタイを取り出した。黒い飾り布が萎えた手首に宛がわれる。極める寸前で長谷部の理性はまともに働いていない。両手を頭上にまとめられ、自慰を禁じられたと知ったのは事が済んだ後だった。

「え、ぁ、なんでッ……!」
「こうでもしないと自分でおちんちん扱いて出そうとするだろう? 大丈夫、長谷部くん身体は素直だから頑張ればいけるよ」
「う、うぅーッ! ぁ、あ、あ、ッ! いやら、だしたい、なんで、こんなっ……きもちいいのにぃ……!」
 燭台切に蹂躙され、後孔を満たされるのはたまらない。肉鞘は喜々として雄にしゃぶりつくが、射精には一歩届かず、長谷部は気が狂いそうだった。

 不意に受け入れた怒張が質量を増す。それに伴い抽挿も激しくなって、燭台切の限界も近いのだと悟った。長谷部は強くなる快感に任せ、ひたすらに意味を成さない母音を垂れ流す。足を燭台切に絡め、来るべきときを待った。
「ッ、はせべくん、……!」
 腰を押しつけ、燭台切は長谷部の最奥で果てた。飛沫が腸壁を叩き、濃厚な神気がじわりと溶け込んでいく。喉元を晒し、長谷部は弛緩した身体を褥に預けた。
 腹の奥が熱い。頭はぼうっとする。何も考えられず喘いでいると、中を埋めていた楔が引き抜かれた。接合を解いた燭台切の眉はやんわりと弧を描いている。

「前触らずにいけたね、えらいえらい」
 芯を失った長谷部の陰茎が男に拾われる。先端からは白濁が糸を引き、腹筋にも吐き出した精がこびりついていた。
「え、おれ……いった……?」
「そうだよ、よく頑張ったね」
 男らしい五指が乱れた髪を梳く。最中の獰猛さを忘れ、燭台切はいつになく優しい顔で長谷部を労った。
「ん、もっとほめろ」
 充実感に包まれ、長谷部はそっと目を細めた。燭台切に褒められるのは満更ではない。以前より近侍を目指し、男に附いて学んでいた身である。主とは別に、長谷部はずっとこの黒い太刀にも認められたかった。その事実は燭台切はおろか、当の長谷部すら気付いていない。長谷部が自覚するまでトラブルは尽きないだろうが、それはまた別の話である。ようやくまともな交合を遂げた二振りは、事後の気怠くも甘い雰囲気にしばらく浸り続けていた。