仲間はずれの蝙蝠とひとりぼっちの聖職者 - 5/7

 

 長谷部が教会に辿り着いたのは、日没から少し後のことだった。顔色の悪さを見咎められ、豊前に送ってもらったため肉体的にはそこまで疲労していない。洞窟の手前にあった謎の車は豊前の私物らしく、馬を凌ぐ速さで街道まで突き進むのには長谷部も驚いた。家まで送ってもらえれば楽だったろうが、生憎と豊前を教会に案内するわけにはいかない。

 長谷部の勘が正しければ、豊前が追っている吸血鬼は養父と何かしらの関係が有る。仮に外道の法によって神父が蘇っていたとしたら、それを処断するのは誰でもない、彼に育てられた長谷部の責務だろう。

 燭台切と会うかもしれないという懸念はこの際捨てる。あの男にとっても神父の疑惑は他人事ではないはずだ。長谷部は迷うことなく教会の門を久々にくぐった。
 流石に二十年近く住み続けた家である。長谷部が異常に気付くのは早く、半開きになった扉に触れたときにはもう駆け出していた。

「燭台切!」

 講壇の下に黒い影が蹲っている。長谷部には遠目からでも燭台切と判った。男の背中には焦げた跡と風穴が空いており、痛みのためか身体はひどく熱を帯びている。既に日は落ち、治癒能力も上がっているはずなのに、燭台切の傷は癒える様子がなかった。

「はせべ、くん」
 濁った金色が長谷部を見上げる。待ち人がやっと帰ってきたことに安堵し、燭台切は痛みも忘れて顔を綻ばせた。長谷部は憤慨する。間に合わなかったこと、またもや燭台切に何もかも背負わせてしまったこと、そして、こんな状況で自分に微笑みかける吸血鬼にどうしようもなく腹が立った。

「ばかだ。おまえは、ばかだ。俺なんか放っておけばいいのに、お人好しのくせにへたな悪役のふりまでして、こんなけがまでして、ほんとうに、とんだばかやろうだ」
「はせべくんこそ、僕のこと殺してやるって言ってたくせに、いざ機会が回ってきても何もしなかったじゃないか」
「うるさい。おまえみたいなお人好し、俺が手をくださなくったって、そのうちだまされてあっさり死ぬだろ」
「そのうちというか、今まさにその状況におちいってるかなあ」

 口では燭台切を貶しながら、長谷部は男の首を抱いて離さなかった。ひっきりなしに落ちる雫が燭台切の頬を濡らす。水を湛えては雨を降らす目尻を拭いたいのに、燭台切の手は主人の命令を頑として受け付けようとしなかった。

「背中のきず、なおせないのか」
「銀でやられたからねえ……本調子でないと、少しきびしい、かな」
「どうすれば調子がもどる」
「……言わない」
「いえ、いわないと殺すぞ」
「できない脅しはするものじゃないよ。教えたらきっと君は自分をぎせいにする。はせべくんがいないなら、僕だけが生きていてもしょうがないだろう。いいこだから、わかってくれ」

 長谷部は燭台切の言葉に息を呑んだ。十五年も付き合ってきた相手だ、男の矜恃がどれほどのものかもよく知っている。死まで覚悟した燭台切が、長谷部の嘆願で口を割るとは思えなかった。

「……ぎせいになっても、かまわない」
「君がかまわなくても僕が」
「おまえが何と言おうと知ったことか! おまえは死んだらそれでまんぞくかもしれないが、のこされるおれのきもちはどうなる! 大切なひとが目のまえで死ぬのを、おれに二度も見せつけようというのか! ふざけるなよ、おれは、おれだって、おまえをたすけられるなら、命だっていらないんだ!」

 長谷部は燭台切の頬を掴むと、半ば噛みつくように互いの唇を合わせた。驚愕する燭台切に構わず、長谷部は舌先で入り口を何度も突く。薄く開いた隙間に割り入り、歯列を夢中でなぞれば鋭い犬歯に当たった。長谷部は自らその牙に触れ、柔らかい肉を先端に押し込んだ。

「ッ、ン、んぅ……!」
 血と唾液とを絡め、長谷部は己の一部を燭台切の奥へ奥へと懸命に流し込む。息苦しくなって何度か唇を離したが、長谷部はその都度すぐに口吸いを再開した。

 体温は下がってきたものの、それでも燭台切の咥内は熱く、長谷部の思考を蕩けさせるには十分すぎた。血を飲ませたいのか、燭台切と触れ合っていたいのか、建前と本音が曖昧になっていく。とうとう痺れを感じて舌を休めると、長谷部の視界は反転していた。

「っ!? ん、んん、ま、ッ……!」
 上下を入れ替えた燭台切が容赦無く長谷部の咥内を貪る。手首を床に縫い付けられ、体重で押さえ込まれてしまうと、長谷部はもう力では抵抗できない。

 血の滲む舌先を吸われ、顎裏を舐められ、散々に蹂躙された。吐息が互いの頬を撫でる。酸欠に喘ぐ長谷部の肌は朱が差していた。満たしたばかりの飢えがまた迫り上がって、人外の瞳が昏い光を灯し出す。フーフーと荒い息をつく男は目の前の白に中てられながら、理性の瀬戸際で警鐘を鳴らした。

「わかった、だろ。僕は君を食べたいんだ。君のことが好きで大切にしたいのに、僕のものだと身体に刻み込んでめちゃくちゃにしてやりたいとも思う。血が足りないからセーブも利かない。逃がすなら今しかないんだ。拒んでくれ長谷部くん、僕だって大切な人を二度も殺したくはない」

 獲物を押さえ込んでいた腕が僅かに弛緩する。長谷部が軽く捩るだけで拘束は外れた。自由になった両腕が燭台切に伸びる。押し返されることを期待した男は、不意に背中を撫でられて色を失った。患部を刺激しないよう、長谷部は丁寧に、優しく触れていく。出血は治まり、傷口も塞がっていた。

「元気が出てきたみたいで何よりだ。これで遠慮なく爪を立てられるな」
「長谷部くん人の話聞いてた?」
「聞いてた。長い。御託はいいから早く飯を食え」
「ああ聞いてなかったやつだ、僕の渾身の告白が何の意味も成してないやつだこれ」
「だから、その告白の返事がはい、かつ、いいえなんだよ。食べたいなら好きなだけ食え。誰かさんのお陰で随分と鍛えさせられたからなァ、多少乱暴に扱われたって問題ない。本当にまずいと感じたら全力で抵抗する。だから、その――俺も、お前にめちゃくちゃに、されたい」
 強気に捲し立てていた長谷部が語尾に近づくにつれ声量を落とし、頬の紅潮をさらに強めていく。告げられた内容の破壊力も手伝って、燭台切は自分の何かが焼き切れたのを、どこか他人事のように感じていた。

 長谷部を強引に立ち上がらせ、長椅子に腰掛けた自分の膝の間に座らせる。無垢な首筋に顔を埋めると、あの甘い香りがして燭台切はますます陶然となった。

 左の手でカソックのボタンを外し、もう一方の手で長谷部の稜線をなぞる。しなやかな筋肉のついた肢体は弾力が有り、どこを触っても心地良い。もどかしい刺激に長谷部が焦れったく思っていると、緩められた首元に赤い舌が這って息を詰めた。
 血管の形を辿り、丹念に愛撫する燭台切の牙が時折皮膚に触れる。いつ食い破られるか判らぬ緊張感は、反って長谷部の熱を煽った。

 それを察してか、燭台切の右腕が衣服の下へと入り込んで肌を直接愛で始める。大きな掌が腹筋を撫で、徐々に上へと向かった。膨らみの無い、薄く肉の載った胸をやわやわと揉まれ、長谷部は己の人差し指を食んだ。

 燭台切に後ろから抱えられているこの体勢は、男がどのようにして自分を高めているのが見えて厄介である。はだけられた胸元を革手袋が新たに覆って悪戯に動き回る。時折顔を出す突起を見ていると、前触れもなく指先で押し潰され長谷部から悲鳴が上がった。

「あ、ッ、ひ、ぐりぐりすんな……! ばか、俺は、女じゃない……!」
「そう? すごく熱心に見てたから、触ってほしいのかと思った」
「胸、なんて触られて感じるわけないだろ、ひンッ!」
「即堕ちじゃないか。ふふ、おっぱい弱い長谷部くん、かーわいい」

 左右それぞれの乳頭を摘まれ、潰され、弄り回される。性感帯として意識したことのない部分が、燭台切に触れられただけで容易に昂ぶってしまう。
 自分はこんなにも淫乱だったのか、と愕然とする長谷部だったが身体はより一層快楽を求めた。服を掴んで刺激に耐えていた手は、腿に挟まれ下腹部を擦り上げている。いつから腫れ上がった中心を己で慰めていたのか長谷部も記憶に無い。
 本当は前を寛げて一心不乱に扱きたいのに、身体は燭台切に犯されるのを望んでいる。胸から少し燭台切の手が離れるだけで、長谷部は切なげに息を漏らすようになった。

「あとこっちも……やりすぎたら、殴ってでも止めてね」
 執拗に唾液を塗していた箇所に白いものが押し当てられる。身構える間もなく燭台切の牙は長谷部の肌に食い込み、迸る血潮で喉を潤し始めた。

「イッ、あ、ァ――!?」
 のたうつ長谷部を腹に回った腕が押し止める。舌の先を吸われるのとは全く違う感覚だった。身体に穴を開けられた苦しみと、傷口から回る毒の甘さに長谷部は危うく失神しかけた。

 血を吸われるほど五感は鋭くなり、ただ触れられるだけで眩暈がするほどの快楽を得る。垂れそうになる赤い雫を燭台切が舐めとったときには、もう耐えられなかった。絶頂を迎えた長谷部が激しく痙攣する。極まった身体を体重ごと燭台切に預け、長谷部は呆然とステンドグラスの意匠に向き合った。

 吸血の毒にやられたのは長谷部だけではない。十五年掛けて熟成した血は、燭台切の想像を超えて遙かに極上だった。四肢に活力が漲り、ひどく凶暴な衝動が膨らみだす。ぐつぐつ煮込まれた支配欲が歯を立てた獲物に向かい、邪魔な衣装を剥がそうと手足を突き動かした。

「ひ、しょくだ、やだ、音たてるな」
「触る前からグチャグチャだったんだから無理だよ。ねえ、僕に血を吸われるの、そんなに良かった?」
 低音を耳に直接吹き込まれ、達したばかりの性器が再び熱を帯びる。長谷部が言葉で嬲られるのにも弱いと知り、燭台切は殊更に粘ついた音を出した。下着の中に差し込まれた手が肉の竿を扱き、白濁を絡め取る。そうして湿り気を纏った指が奥まった場所に伸びた。

「っ、きつ……指だけでこれじゃあ、僕の入れたらどうなっちゃうんだろうね長谷部くん」
「しらな、あ、ッ、なか、くるし……!」
「知らないじゃなくて考えて。お尻に僕のを受け入れて、お腹いっぱい掻き回されて、吸われた血の分だけ奥に子種注がれる自分を想像してみて」
「え、あ……」
「どう? 想像の中の長谷部くんは、僕に抱かれて気持ちよさそうにしてた?」

 問い掛けついでに耳朶を食む。肩を震わせながら、長谷部は言われるまま燭台切に組み敷かれ、よがり狂いながら雄を受け入れる自分を想像した。
 目頭が熱くなり、腰の重みも一段と増す。異物感に悶えていた腸壁は咥えた指をきゅうと締めつけ、さらなる陵辱を待った。

「あは、長谷部くん顔とろっとろ……期待には応えたいから、長谷部くんもしてほしいことが有ったら言ってね?」
「ぅ、ん……! ゆび、そこ……ァっ、へん、になるからァ……!」
「変じゃなくて気持ちいい、だよ。ちゃんと覚えてね」

 しこりを擦られるたびに未知の感覚が湧きあがる。燭台切が快楽と呼ぶそれは、陰茎を刺激して得られるものとは異なり、じわじわと身体を作り替えていく恐ろしさが有った。
 拠り所を求め、長谷部の萎えた手が宙をさまよう。己を挟む腿を掴み、背中を丸めて嘆息すれば、自然長谷部の腰は下がって燭台切と密着する形になる。ゴリ、と硬質の感触が服越しに伝わって、長谷部は飛び上がりそうになった。

「うわ、うわわわ……! おま、なんだそれ、なんだそれ!」
「いずれ君の中にお邪魔するものです」
「むり、ぜったいむり……こわれる、俺のキャパシティをはるかにこえている……お荷物の重量を落としてからまたのご来店をお待ちしております……」
「長谷部くん思ったより余裕有りそうだし、こっちも大分ほぐれてきたから大丈夫だよ」
 ぐちゅ、と燭台切が差し入れた指で隘路を割り開いた。既に三本も呑み込んだ後孔は柔らかく、注ぎ足した体液でぬかるんでいる。

「ねえ、長谷部くん。そろそろいいかな……?」
「お客様さらに荷物を増やされてのご来店はご遠慮願います」
「もうこんなに広がるようになったし、長谷部くんも前ガッチガチだよ」
「う……うー……うー……」
「長谷部くん、ね、君の中に入りたい。身体の深いところで繋がって、二人で一緒に気持ち良くなりたい。だめかな?」

 顎先を捉えられ、長谷部は否応なしに背後の黄金色と対面させられた。情欲をどろどろに溶かした灯が、闇の中で煌々と燃えたぎっている。十五年もの間、影すら踏ませてくれなかった男が、ただ長谷部一人を求めて喉元を晒している。抗う余地など無かった。おとがいを掴む手に自分の手を重ね、長谷部は男の温もりに擦り寄る。その後に消え入りそうな声で、

「だめ、じゃない」
 と、続きを促した。

 そそり立つ雄の長大さに戦きつつ、長谷部は慎重に腰を下ろしていった。太い雁首が入り口を押し広げ、肉の先端を少しずつ埋没させていく。拓かれる苦しみより、体内に異物を受け入れている圧迫感が長谷部に挿入を躊躇わせる。動きの止まった恋人を抱き寄せ、燭台切は励ますように頭を撫でた。
 後ろから繋がろうとしたのを止めたのは長谷部の方である。その体勢だと抱きつきづらいから、という何ともいじらしい理由に、燭台切は血の酔いが一気に吹き飛んだ。図らずも加虐的な思考に陥り、長谷部を心身ともにいたぶったことを反省する。その反省を口にすると、強引なのも悪くなかった、と恥じらいながら返すので、燭台切が真顔になったのは言うまでもない。このまま行為に至ればまた酷くしそうだと思い、燭台切は敢えて長谷部のペースに任せた。

「ン、は……見てろよ、逆に俺がお前を食らってやるからな」
 調子を取り戻した長谷部が再び燭台切を腹の中に収めていく。挑発してみたものの、内側を犯す男の性器は未だ半分にも到達していない。体重を掛ければ自ずと結合も深まるだろうが、長谷部もそこまで思いきりよくはなれなかった。

「ッ、もっと慎ましいサイズになれないのか……!」
「ごめんね、長谷部くんがえっちで可愛いから張り切っちゃって」
「一回お前の目を通して俺を見てみたい」
「長谷部くんの目と交換なら考えるけど」
「……だめだ、やめよう。今の提案は無しだ」
「ええ、ちょっと気になるけどな。長谷部くんから見て僕がどんな風に映ってるのか」
「だから無しって言っただろ! 鏡でも見とけ!」
「鏡見ても僕は映らないし……あ、でも今長谷部くんの目に僕が映ってる」
 唐突に燭台切の顔が近づき、長谷部は肩をびくりと竦めた。口を吸うどころか、今まさに身体を繋げようという段階でこの反応は初々しすぎる。忍び笑う燭台切に対して、長谷部は不満顔だった。

「いきなりだから少し驚いただけだ」
「ふ、くく、解ってるよ。つまり、いきなりじゃなければ良いんだよね?」

 手袋を外した手が長谷部の煤色を掬う。後頭部を撫でられ、長谷部はすっかり夢心地だった。互いの吐息が唇を濡らす。どちらともなく距離を詰め、触れ合うだけの口付けを交わした。
 唇を食むのに夢中の長谷部から余計な力が抜けていく。燭台切は口吸いをねだる長谷部に応えながら、密かに腰を進めていった。

「全部入ったよ、長谷部くん」
「ふぇ……? ぜん、ぶ……?」
 軽く揺さぶられた長谷部があられもない声を上げる。男の下生えが肌に触れ、へその辺りまで串刺しにされたような重みが有った。改めて燭台切のものになったという実感が湧く。嬉しくなって、長谷部は己の下腹を擦り、口角に弧を描いた。

「すごいな、こんな奥までお前でいっぱいになってる」
「……長谷部くんって本当に長谷部くんだよね」
「よくわからんが、そうだな? お前の長谷部くんだぞ」
「君を十五年見守ってきた自分の理性に今感服してるところだよ」
「なんだ、十五年前から目を付けてたのか。やっぱりショタコ」
「もういいよ、長谷部くんが相手ならショタコンだって何だってなってやる」
 お決まりの文句を遮り、燭台切は埋めたばかりの欲望を限界まで引き抜いた。

「ひっ、あ、ああァ! またはい、って、……ッ!」
 入れたときとほぼ変わらない、緩やかな律動が繰り返される。激しさこそ無いが、時間を掛けて中を行き来する雄は、嫌でも長谷部に男の形を意識させた。拓かれて間もない身体はやはり違和感の方が強く、愛される悦びを知るには至らない。ただ、満たされるごとにふわふわと、得体の知れぬ感覚が顔を覗かせるようになった。

「っ、長谷部くんの中すっご……吸いついてきて、離れないや」
 吸血に勝るとも劣らぬ快感が燭台切を苛む。今にも腰を好きに叩きつけ精を注ぎ込みたくなるのを耐えながら、燭台切は長谷部の反応を入念に探った。自分だけ好くなっても意味は無い。長谷部にも苦痛以外を感じてほしい。抱かれる幸せを教え込み、これは睦み合う行為なのだと伝えたい。幸い単純な往復には慣れてきたようなので、もう少し大胆に動いても構わないだろう。長谷部の細腰を両手で掴み、繋がる角度を変える。そのまま突き入れると、肉壁が急に中の燭台切を絞り上げた。

「あ、あ……? や、いまの、なに……?」
 双脚がわななき、長谷部が怯えたような目つきで燭台切に問い掛ける。偶然かどうか確かめたくて、燭台切は答えるより前に先ほどと同じ場所を狙って突き上げた。
「ァ、アーーーーッ!」
 ほとんど悲鳴に近い嬌声が上がり、後孔が再び受け入れた雄に食らいついた。倒れ込む長谷部を労りつつ、燭台切は確信する。これで独りよがりな行為にならなくて済む、と長谷部の耳元に微笑を寄せた。

「怖がらなくていいよ。これで長谷部くんも気持ち良くなれるって判ったから、少しだけ激しくするね」
「え、あッ? うそ、やだッしょくだいきり、とまっアアア!」
 じゅぶじゅぶ、と容赦の無い抽挿で粘ついた音が立つ。一変した下腹部の刺激に長谷部は理解が追いつかない。ただ身体だけが快楽を素直に受け取り、逸物を埋められるたびに噎び泣いた。熱く逞しい塊が壁を拡げ、最奥を力強くノックする。勢い結腸を開発しそうになって、燭台切はまだ早いと手前の前立腺を重点的に責めた。

「フゥ、フッ……! ァ、あッ! しょくだいきり、しょくだいきりっ……!」
「ん、はせべくんかわいい……もっと気持ちよくなって、もっと僕に甘えてくれッ……!」
 しばらく触れておらずとも、長谷部の性器は勃起し腹につかんばかりになっている。中を掻き回す傍ら、燭台切は放っておかれた長谷部の陰茎を指先で弄った。
「ッ!? やら、しょくだいきり、でるッ、でるからはなしッ……」
「出したいんだろう? いいよ、前も後ろも弄ってあげるから、好きなときに出して」
「ば、あ、あああ……! も、ィ、クっ……!」
 燭台切に縋りつき、長谷部はがくがくと震えながら精を解放した。勢いよく放たれた白濁が燭台切の手や服に四散する。一瞬の恍惚を経て正気に戻った長谷部は、燭台切を汚してしまったことに蒼白となった。

「わ、わるい……今拭くから待ってく……何故舐めた」
「いや舐めるよ。血ほどじゃないけど精液も僕にとっては栄養だし。ふふ、長谷部くんのはどっちも美味しいねえ」
「初恋の相手が変態だった。泣きたい」
「種族的な事情ですーさてデザートも頂いたことだし、長谷部くんはもうちょっとだけ付き合ってね?」
 繋がったまま長谷部は長椅子の上に横たえられた。まだ敏感な中がうねって声が小さく漏れる。息を整えながら燭台切を見上げると、ちょうど長谷部の左足を肩に担いだところだった。
 乱れた服の合間から覗ける身体つきは、男らしくも端整なもので、同性の視点から見ても非常に美しい。長谷部はこれから先に起こるだろうことも忘れて、燭台切に見惚れている。そんな長谷部が心底愛おしくなって、燭台切は堪らず腰を打ちつけた。

「ひぁァアッ! あ、やだ、おおき、はら、おく、きもちいぃぃ……!」
「はっ、はあ、はせべくん……! すき、すきだよ……!」
「うン、おれも、すき……! ずっと、ずっとまえからすきだった……!」
 相手を高めるのではなく、射精を目的とした動きは激しく、遠慮が一切無い。長谷部は自分本位に揺さぶる燭台切が見られて嬉しかった。愛しい男が自分に溺れ、美しいかんばせを快楽に歪めて、白い肌に珠の汗を浮かべている。これほど満たされたと思えた試しは無い。どんどん速くなる律動に燭台切の限界も近いのだと知る。男を受け入れ続けた媚肉が期待に震え戦いた。

「ッ、く、はせべくん、だすよ……! ちゃんと、奥で受け止めてね……!」
「あ……あああああ……!」
 みっちりと詰め込まれた肉の先から熱が噴き出す。精を吐き出しながら燭台切はなおも腰を押しつけ、己の体液を長谷部に染みこませた。これは自分のものだと主張するような行為に、長谷部もぞくぞくと良からぬ痺れを覚える。嵐のごとき交歓が終わり、二人はしばらく心地良い疲労感に浸った。

 長谷部から血と精を摂った燭台切の体調はとうに万全である。夜も深まり、吸血鬼の領分になった今となっては寧ろこれからが本番と言えた。その何よりの証拠として、長谷部の中に入ったままの燭台切は未だ萎えていない。無言で見つめ合う二人は、程なくして再び影を重ねた。戯れるような触れ合いはすぐに熱を上げていく。長谷部が気を失うまで聖堂での秘め事は続けられた。