園芸部光忠 VS ミニトマト嫌いな幽霊長谷部くん - 3/5

 

「毎日毎日、よくそんな赤い果実に情熱を燃やせるな」
「寧ろミニトマトをそこまで憎悪できる君に感心するよ。いっそ食べてみたら? 意外に食わず嫌いなだけかもよ」
「そんな悪魔の実を喰らうぐらいなら死んだ方がマシだ」
「なにそれ幽霊ジョーク?」

 幽霊くんと出会ってから初めての週末である。土日故に校内の人気は少ないが、蝉の大合唱とゲストのお陰で物寂しさを覚えることも無い。会話していれば皮膚にべたりと貼り付くシャツの不快さも忘れられた。

「園芸部って言ったら、パンジーとかチューリップみたいな花を育てているイメージなんだがな。何でミニトマトなんだ。夏休みの自由研究か」
「まあ、それの延長みたいなものだよ。そもそも僕はこのトマトを育てたくて園芸部に入ったんだよね」
「すごいニッチな入部理由だな」
「先輩にも似たようなこと言われたよ」
「解らんな、何故そこまであのナス科ナス属に拘る必要が有る」
「嫌ってる割に微妙に詳しいな。ミニトマトはねえ、僕の青春の象徴なんだよ。あの赤い実には僕の甘酸っぱい思い出がたっぷり詰まってるんだ」
「随分とベジタリアン歓喜な青春模様だな。例の長谷部くんとやらの実家はトマト農園だったのか」
「何でそこで長谷部くん?」
「初恋の相手だったんだろ」
 鶴さんのおしゃべり。先日の軽口を阻止しきれなかったと知り、つい作業する手を止めてしまった。彼の前で長谷部くんの話をするのはどうにも躊躇われる。僕は曖昧に頷いて、じょうろの取っ手を握り直した。

「どういうやつだったんだ、その長谷部くんは」
「思った以上にグイグイ来るね君」
「鶴丸も太鼓鐘も、揃って俺と初めて会ったとき長谷部の名前を挙げた。どれだけ似ているのか気になるじゃないか」
 引くつもりは無いらしい。零れそうになる溜息を抑え、僕は七年前の夏に想いを馳せた。

 

 

「長谷部くん」
 屈んでなおも伸びる背筋に声を掛ける。おう、と短い返事の後に長谷部くんは立ち上がった。その前には青々とした果実をぶら下げた鉢植えが有る。
「よく来たな光忠。どうだ俺のミニトマトは、立派だろう」
 得意げに言う長谷部くんは胸元に一冊のノートを抱えていた。ミニトマト観察日記、と題された表紙は僕も数度お目に掛かっている。小学生らしい、色鉛筆で彩られたイラストは今思い返しても微笑ましい。

「そうだね、いっぱい実がついてる。前は両手で数えられるくらいだったのに」
「ふふん、俺が育ててるんだから当然だな。赤くなったら光忠には一番に食べさせてやるぞ。表紙作りを手伝ってくれた礼だ」
「僕がやりたいだけだったから気にしなくてもいいのに。でも収穫は僕も楽しみ、サラダにしたらきっと美味しいよね」
「ああ、爺ちゃんのきゅうりと一緒にして食べよう。この調子で行けば、お盆には結構赤くなってるはずだ」
 相槌と共に首肯する。長谷部くんと出会ったのは夏休みの始めで七月の下旬、僕たちの交友は未だ二週間にも達していない。それでも毎日のように通い、毎日のように約束を交わし続けるうちに、僕らはすっかり十年来の友人のような間柄になっていた。

「八日は日帰り旅行だから会えないな」
 居間のテーブルに手帳を広げ、互いに予定を確認し合う。あまりにも僕が頻繁に訪ねるものだから、長谷部家の人々が日がな留守にするときは必ず連絡が入った。
「少し寂しいけど、お土産話、期待してるね」
「任せろ。だが次からはお前も一緒に来るんだぞ」
 約束だ、とぴんと立った小指を突き出される。大人びた言動が目立つ長谷部くんだが、時折こうして子供らしい一面が垣間見えた。己の指を絡めれば目に見えて喜んでくれる、皮肉屋の割に素直なところが有る友人が僕は大好きだった。

「二人でいっぱい遊ぶためにも、早く宿題を終わらせないとね」
「そうだなあ。先に全部済ませた方が相手に一つ、何でも言うこと聞かせられるとかどうだ? これならのんびり屋の光忠もやる気出すだろ」
「家庭科の料理レポートと、貯金箱の制作と、ポスターの色塗りを手伝わなくてもいいって言うなら考えようかな」
「ふ、ふん。それくらいのハンデくれてやる。スピード勝負で負けてられるか」
 どこの小学校でも夏休みに出される課題は似たようなものである。図画工作が極端に苦手な友人は、額に滲ませた脂汗を暑さのせいだと言い張った。今日も長谷部家の居間は冷房がよく効いている。

  夏の日は長い。六時を回ろうと天上の光は容赦なく剥き出しの肌を焼いた。虫たちの輪唱だって、ヒグラシよりアブラゼミの声の方が大きい。それでも一度空に飴色が混ざると暗くなるのはあっという間だった。

 門限に従い、名残惜しさを多分に感じながら友人の家を後にする。いつもは早足で歩く長谷部くんも、見送りのときだけは足取りが緩やかだった。ひまわり畑から初めて会った庭石の元まで、そこら中が緑に覆われた道を進む。帰り際の会話はあまり弾まない。口を開けば離れがたくなるのをお互い解っていたせいだろう。前を行く長谷部くんの肩は、どことなく落ち込んで見えた。

「また明日な」
「うん。おやすみ、長谷部くん」

 何度も振り返ってはどやされてを繰り返して、僕はようやく帰路に就く。
 いったい僕たちがこの挨拶を交わせる日数は、あとどれくらいだろう。最近はカレンダーを見るのが怖くなってきていた。

 そして迎える八月八日、長谷部くんと会えない空虚な一日が始まった。外は快晴だったけれど出かける気力も湧かず、僕は家でひたすら宿題を消化していた。しかし気を抜けば考えるのは長谷部くんのことばかりで、どうにも集中力が持続しない。
 行き先は温泉地だと聞いている。そろそろ友人はゆったり湯船に浸かっている頃だろうか。じっとしてるのが苦手な彼である。祖父の手前、烏の行水というわけにもいかず、さぞ落ち着かない時間を過ごしていることだろう。そんな長谷部くんの相手をしてあげられないのは、やはり歯がゆく感じられた。
 この寂寥感を味わうのも明日までの辛抱だ。投げ置いたペンを手に取り、僕は再び課題の山に向かった。

 外の様子がおかしくなってきたのは日没前のことだった。予報に無い灰色の雲が空全体に広がっている。水滴が窓ガラスに付着した。雨の勢いは瞬く間に激しくなり、室内にまでその音を響かせている。急いでテレビのチャンネルをウェザーニュースに合わせた。東北地方に注目し異常が無いことを確認する。どうやら局地的な豪雨らしい。僕の住んでる地域について特に言及することなく、話題は南海沖で発生した台風へと移っていった。

 胸を撫で下ろしたのも束の間、庭の方からけたたましい音が鳴り響く。外を見れば強風のせいでプランターのいくつかがスタンドから落下していた。散乱する破片とその間から見える腐葉土が俄に不安を掻き立てる。

 長谷部くんの育てているミニトマトは無事だろうか。細い支柱を数本打ち立てた鉢植えを思い起こす。明らかに重量感が足りていないそれは、庭に転がったプランターと同じ末路を辿っても何らおかしくなかった。
 衝動に任せて雨合羽をひっ掴む。両親が仕事で留守なのを良いことに、僕は嵐の中を飛び出していった。

 側溝から溢れた水が長靴の底を浸す。雨具を身につけている恩恵をほぼ感じられないぐらい、外は大荒れだった。視界も覚束ない中、迷わず目的地に辿り着けたのは僥倖以外の何物でもない。生け垣の僅かな隙間に身体をねじこませ、無人の畑を駆け抜ける。跳ねる泥も意に介さず、二人並んで西瓜を食べた縁側を目指した。

 結論から言えば、僕の懸念は現実のものとなった。横に倒れたミニトマトは数本ほど茎が折れている。ただ大部分の果実は繋がったままで、全体を通してみても原型を失ってはいなかった。慌てて鉢植えを抱え込み、軒下へと避難する。ガラス戸が締められているから家の中には入れないが、それでも屋根が有るだけ雲泥の差だった。

「君はご主人様に似て、頑丈だね」

 折れた箇所を除き、ミニトマトの茎や葉はどれも天を仰いだままで萎れてはいなかった。そのたくましい姿は自ずと男気溢れる友人を彷彿させる。
 日帰りとは言っていたが、この悪天候が続くようなら少なからず影響が出るだろう。僕も急ぐ必要が無くなったのに再度風雨にさらされたくはない。落ち着ける場所を得たせいか、身体がようやく疲労を認識し始める。不意に重くなった瞼を閉じれば、意識はすっと遠のいていった。

 ずるずる。近くから何かを啜る音が聞こえる。その正体を探ろうとして、身体が妙に気怠さを訴えるのに気付いた。上体を起こすのも億劫に感じて、目だけをゆっくりと開く。

 やや古ぼけた電灯の紐と板張りの天井、あからさまに和風な作りはここが自宅でないことを意識させた。どうやら僕は布団に横になっていたらしい。反発しない生地を物珍しく思っていると、お腹の辺りに覚えていた圧迫感がふと無くなった。

「みつただ!」

 頬を生温い液体が伝う。この優しい雨は友人の双眸から降り注いでいた。たかだか一日会えなかっただけなのに、怒気と安堵とを滲ませた紫色が酷く懐かしく感じる。

「おかえり、はせべくん」
「ただいま、おおばかやろう」
「ばかはひどいなあ」
「いいや、おまえはばかだ、おおうつけだ。トマトなんかほうっておけばいいのに、こんな、ねつまでだして、すくいようのないばかだ」
「トマトがだめになったら、かんさつにっき、かけないだろう。ぼく、ふせんしょうなんていやだよ」
「この、しょうぶばか」
 きみにだけは言われたくない。そう返そうとして咳き込んでしまった。長谷部くんが気遣わしげに眉をひそめる。ああ、そんな顔が見たかったわけじゃないんだ。腕を伸ばす。友人の目尻に触れた指先が、溜まった雫を吸って潤った。

「なかないで、はせべくん」
「うるさい、ないてない」
「ぼくはただ、きみと一緒に、あのトマトをたべたかっただけなんだ。やくそく、しただろう?」
「おまえ、そんなにトマトがすきだったのか。はやくいえよ、サラダにはいってるやつ、俺のぶんもあげたのに」
「ぼくはトマトより、はせべくんのほうがすきだよ」
「やさいとくらべられてもなァ」
「トマトとくらべなくてもすき。ぼくの一番のすきは、はせべくんのものだよ」

 藤色の瞳が大きく瞠られる。混乱を極めているのだろう、友人の唇は忙しなく開閉する一方で何の言葉も紡ごうとしない。僕はその隙に長谷部くんの手を取って、指の付け根に軽く口づけた。びくり、と身体が強ばったのが唇越しにも伝わってくる。

「みつ、ただ」
「すき。はせべくん、すき」
「やめ」
「はせべくんの一番も、ぼくだったらいいのに」
「やめろ!」

 怒号と共に掴んでいた手が勢いよく離れていく。それに追い縋る体力は残っておらず、僕はただ自分を睥睨する友人の視線に耐えるばかりだった。

「おれは、おまえをおれの一番にしたくない」

 それだけを告げて、長谷部くんは襖の向こうに行方をくらました。伸ばした指先が俊敏な友人を捕らえることは無い。中途半端に浮かした腕が布団に落ちる。失恋の悲しみに暮れるより先に、睡魔と無気力さが僕の全身を支配していった。

 翌日、僕は両親に迎えられ、その足で病院に向かった。見事に風邪の診断を頂戴した僕が暫く外出を禁じられたのは言うまでもない。自室で高熱に喘ぐ間も、考えるのは長谷部くんのことばかりだった。
 僕を一番にしたくない、とはどういう意味だろう。他に好きな子がいるのかな。それとも僕じゃ彼の相棒には不足だったのかな。長谷部くんの口から直接その答えを聞いてみたい、そう思うのに僕の身体は重くて動かない。もどかしいことこの上なかった。

 短いようで長かった三日間が終わる。完治した僕が友人と再会することは無かった。長谷部くんは予定よりも早く、実家の福岡に戻っていた。残されたのは、あの嵐の夜に必死で守ったミニトマトのみだった。

「これは君にやろう」

 孫の代わりと思ってくれ、と厚意で譲られた鉢植えを受け取る。初めて見た頃はまだ小さく青みがかっていた果実は、もう随分と赤く色づいていた。
 あれから七年の月日が経ち、彼の忘れ形見は世代を変えて、今年の夏も沢山の実を結んでいる。持ち主より先に収穫の味を覚えてしまったことを、詫びる機会は一度も訪れていなかった。

 

 

「薄情なやつだったんだな」

 長い回想を聞き終えた、幽霊くんの第一声がこれである。僕の初恋について他に知っているのは貞ちゃん、伽羅ちゃん、鶴さんの三人で、誰もが彼と同様の反応を示した。

「まあ、いきなり同性の友人から告白されたら誰だって驚くよ。その辺は要反省だったねえ、熱で朦朧としてたとはいえ格好悪いことしちゃったなあ」
「何を言う。友人との約束のために自分の身を犠牲にした男が、どうして格好悪いんだ。胸を張れ、お前は良い男だよ」
「あ、ありがとう」
 似たような慰めは既に友人たちから受けていた。彼とは出会って一週間も経っておらず、特に目新しい言葉を掛けられたわけではない。それなのに何故だか気分が異様に昂揚して落ち着かなかった。やはり長谷部くんと面影が似ているせいだろうか。彼の発言が七年越しにもたらされた初恋の少年からの返答に聞こえてしまう。

「しかし、その長谷部とやらも見る目が無いな。男同士とはいえ、こんな極上のイケメンを袖にするとは」
「いやあ性別の壁って結構厚いんじゃないかなあ。君だって僕からいきなり付き合ってくれ、って言われたら断るだろう?」
「それはそうだな」
 自分で言っておきながら、いざ肯定されると少しへこむ。落胆を覚られないよう、僕は作業を再開するフリをした。

「ずっと一緒に居られる保証も無いのに、軽々しく交際を受け入れる気にはなれん」
 妙に実感の籠もった独白はどういった心境から生み出されたのだろう。彼に背を向けていた僕は、表情からその本心を推し量ることもできなかった。

 幽霊くんと別れた後、僕は伽羅ちゃんの家を訪れていた。連絡を入れてきた鶴さんは勿論、貞ちゃんも来ているらしい。始めは新しいゲームを手に入れたから四人で遊ぼう、という誘いかとも思った。しかし、待ち受けていた事態は僕が予想していたよりずっと深刻で、重苦しい。

「これは一年前の雑誌だ」

 部屋の主が見せてきたのは主にスポーツ用品を取り扱った雑誌だった。めくり癖のついたカタログページを飛ばし、学生選手のピックアップコーナーが開かれる。友人の褐色の指先を追えば、最近になって見慣れた顔が載っていた。

「才色兼備のアスリート、長谷部国重(16)男子800mで高校歴代三位を記録」

 力強く疾走する選手のショットを上から下まで丹念に眺める。その男子はどこからどう見ても、つい先ほど別れたばかりの幽霊と同一人物だった。
 次いでプロフィールを確認する。所属している高校は福岡市立のもので、状況証拠だけならほぼ確定と言って良かった。

「貞坊が見つけて、その後すぐに伽羅坊が俺に連絡を入れたんだ。ナイス判断だったと思うぜ、九州には知り合いもそこそこ居るんでな。お陰で出身高校のやつに裏を取ることもできた」
 さすがの顔の広さである。幼少期は親が転勤族だったという鶴さんは、日本各地に友人知人が居るらしい。そのネットワークの広さは僕らもたびたびお世話になっていたけれど、今回こういう形で役に立つとは思っていなかった。役立ってほしくなかった、とも言える。

 東北と九州という距離を隔てている以上、彼が長谷部くんであるはずがないと端から決めつけていた。常識の通じない幽霊相手に、つまらない期待を持ったものである。

「落ち着いて聞けよ光坊。長谷部国重は十日前に駅前の歩道橋で足をすべらせた。その後すぐに病院に搬送されたが、頭部を強く打ったショックで未だに意識が戻っていない」
「生きては、いるんだね?」
「幸いな。だが穏やかでないことに、長谷部の転落は事故ではないという噂も立っている」
「誰かに突き落とされたってこと!?」
 鶴さんがかぶりを振る。物怖じしない彼にしては珍しく、その先を告げるのを躊躇っているような雰囲気が感じられた。固唾を呑む。若干の沈黙を経て、白い友人が物憂げに口を開いた。

「自殺未遂、だと」

 伽羅ちゃんの家から取って返すように学校へ戻った。西の空はもう紅色を滲ませている。まだ運動部の大部分はグラウンドやコートに残っていた。野球部、テニス部、応援部――そして陸上部。熱烈な視線を浴びているにも関わらず、部員たちはその存在にも気付かず記録を縮めるのに汲々としていた。
 もっと早い時間帯に噂を確かめていればとも思うが、それは彼どころか僕にとっても好ましくない結末になっただろう。彼の身元を知らないからこそ、できることも多かったはずだ。

「長谷部くん」

 確信を持って、その名を呼ぶ。煤色の髪に藤色の瞳。外国の血が混ざっているというその容姿は、背丈も伸びて大人びていたけれど、間違いなく長谷部国重その人だった。

「もう少し、誤魔化せると思っていたが」
「よく言うよ。伽羅ちゃんはともかくとして、鶴さんや貞ちゃんのことを名字呼びしておきながら、僕の呼び方だけ昔と変えなかったくせに」
「仕方ないだろう。光忠は、始めから光忠だったんだから」

 くつくつと笑う旧友は、記憶の中の長谷部くんそのままだった。七年の隔たりを、別れ際の不和を感じさせない仕草はいっそ違和感すら覚える。

「君の、目的は何だい」
「それを俺の口から言わせるのか。イケメンに育ったのは外面だけらしいな、嘆かわしい」
「僕に会いに来た、って理由なら嬉しいけどね。でもそれなら記憶喪失の振りなんかする必要無かっただろう」
「……ははっ」

 たん、と長谷部くんが軽く地面を蹴る。数度跳躍を繰り返した後、彼は門外漢にも判るほど綺麗なフォームで駆けだした。

「俺を捕まえられたら、全部教えてやる!」

 一方的な約束をけしかけた幼馴染みは校舎の中に姿を消した。乾いた笑いが込み上げてくる。

 いいよ、上等だ。いつだってかけっこは君の圧勝だったけれど、かくれんぼは僕の勝率の方が高かったよね。どこに隠れようと必ず見つけてやる。待つのが苦手な君が、七年も再会を諦めなかった僕に勝てるはずないだろう。